3362puebloという言葉


puebloというスペイン語がある。一般的には「村」のことだ。

ある催しのための、プログラムの翻訳を頼まれて、この言葉を、日本語の「故郷」の意味で用いたことがある。ところが出来上がったプログラムの中でpueblo は削除され、別の言葉に置き換えられていた。恐らく、「村」というイメージを嫌った日本人関係者の仕業であろうと思っているが、これにはずいぶんと、がっかりさせられた。正確には覚えていないけれど、印刷されていたのは、「生まれた場所」というような意味のスペイン語だったからである。(ちなみに、この催しは営利目的ではなかったので、翻訳もボランティアだった)。

pueblo が意味するのは、村だけではない。「人民」という解釈は、辞書にも載っており、大統領が演説の中でPueblo Mexicano と言えば、それはメキシコ国民のことだ。そこには、国籍のことだけではなく、むしろ、同じ文化を共有する、あるいは、同じ船に乗った仲間のような、そんなニュアンスも感じる。「生まれた場所」というのは地理的な説明でしかないが、Pueblo と言えば、そこには育った環境のすべて、土地の習慣や食べもの、気候から周囲の景色までが含まれるのである。メキシコでPueblo という言葉を、故郷という意味で口にするとき、その人の脳裏に浮かんでいるのは、単なる地図では決してない。

自分の生まれ育った東京を、故郷と言う事には躊躇いがある。胡蝶のPueblo は、幼い頃の記憶の断片を寄せ集めた、もっと漠然とした日本の風景かもしれない。はっきりどこと言える故郷を持っている人が、うらやましいような気もする。